研究概要

Research Summary

研究概要

井上圭一 東京大学

領域代表

東京大学
井上圭一

本領域の内容・目的

高等動物は体内にくまなく張り巡らされた神経ネットワークを持ち、中でもヒトの脳は数百億ものの神経細胞からなるといわれています。そしてこのネットワークが生み出す、高度な神経活動によって、私たちの感情や記憶、行動などが制御されています。

 

これまでに電気刺激や形態観察、投薬刺激を用いた研究から、神経細胞の活動のメカニズムが分子レベルで明らかとされてきました。また近年では光依存的にイオンを輸送するタンパク質を細胞種特異的に発現させるオプトジェネティクスの登場により、極めて高い時空間分解能で個々の回路の活動を操作し、より高次な神経活動の役割を調べることが可能となっています。

 

この様に神経生理学分野の研究は、新たな神経操作法の登場によって大きく発展した歴史を持っていますが、ヒトなどの大型の動物の個体深部に存在する神経回路を非侵襲的に操作することはいまだ困難であり、神経ネットワークの完全な理解に向け大きな障害となっています。

 

そこで本研究領域では従来の電気刺激、投薬、オプトジェネティクスなどを用いた生体操作法に代わる、生体への侵襲性がなく、深部組織まで届けることが容易な光熱・超音波・磁気の三種類の低物理エネルギーに着目することで、既存の手法では困難であった深部神経回路の非侵襲操作法の実現を目指します。

 

そのためこれら低物理エネルギーが感知可能な新規分子ツール(レシーバ分子)開発し、遺伝学的に対象とする細胞種に低物理エネルギー応答性を持たせることを実現します。

 

さらに低物理エネルギーによる生体操作を統合的に捉えた概念「低物理エネルギーロジスティクス」を提唱し、生体深部の任意の箇所へ様々な物理エネルギーを自在に届ける手法を開発することで、体深部にあるレシーバ分子を高精度に操作し、そこで行われる神経活動の生理的役割やメカニズムを理解する新たな実験的研究手法を提案します。

 

これにより全脳や全身レベルの深部組織を含めた生体操作に立脚した新たな学問領域の創成を目指します。

生体分子工学と低物理エネルギーロジスティックスの融合による
次世代非侵襲深部生体操作